漫画×構造分析 『ONE PIECE』アラバスタ編を構造主義的に読み解く。2 ~プロップの「昔話の形態学」/7つの行動領域~

●構造主義とは
  ――プロップの「昔話の形態学」

さっそく本題に入りたいところだが、
前提として構造主義について触れておこう。
いくつかリンクを貼っておく。

ウラジミール・プロップ
文学における構造主義の先駆け、20世紀ソ連の昔話研究家。
彼の唱える「昔話の形態学」がシンプルで分かりやすいので、
その項目を拝借することにする。

Wikipedia ウラジミール・プロップ

もっと詳しく知りたい人は、著書にも挑戦してほしい。

Amazon 『昔話の形態学』
ウラジミール・プロップ著/北岡誠司、福田美智代 翻訳

もう一人、20世紀後半のアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベル
比較神話学にも精通した彼が唱えた、
「Heroes and the Monomyth(英雄と輪廻)」も参考になるかもしれない。

Wikipedia ジョーゼフ・キャンベル *キャンベルの神話論 の項

なお、キャンベルのこの神話論は、
ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』の参考にしたんだとか。
こちらの記事に詳しく書いてあるので、興味があったら読んでみてほしい。

●登場キャラクターを、
「7つの行動領域」に沿って考察してみる

では、いよいよアラバスタ編の登場キャラクターを分類していく。
プロップの「7つの行動領域」に沿って、当てはめてみよう。

・主人公(探求者もしくは犠牲者)

→『ONE PIECE』全編を通しての主人公はもちろんルフィだが、
アラバスタ編においてはビビを主人公ととらえるべきだろう
広く解釈すれば、これはアラバスタ王国全体の受難でもあるといえる。
続く敵対者に害を加えられているのがほかならぬアラバスタ王国であり、
最も胸を痛めているのは王女・ビビなのだ。
しかも、昔話であれば王女は勇者を派遣すればよいところを、
ビビは国の危機のために自ら敵組織に潜入する。主人公で間違いない。

・敵対者(加害者)

→アラバスタ編の敵といえば、
アラバスタ王国の乗っ取りを企むサー・クロコダイルである。
彼が率いるバロック・ワークスは、
ビビが「秘密犯罪会社」(第17巻第155話)と称するように、
組織の理念や組織系統がきちんと出来上がった強大な組織だ。
他のエピソードだと、敵は海賊団や政府側の組織などだが、
バロック・ワークスは組織の全体像がでかい上に、
末端構成員までよく描かれている。
敵対組織としての完成度は群を抜いて高いといえる。
敵が大きければ大きいほど、強ければ強いほど、物語は盛り上がるものだ。
ビビは何度もクロコダイルに立ち向かうが、もちろん力は及ばない。
そこで、主人公は「助力者」に助けを乞うのだ。

・助力者

→主人公の危機を救うために奔走する役割であり、
『桃太郎』でいうイヌ・サル・キジ、
『ダイの大冒険』でいうポップやマァムだ。
ビビにとっての助力者は、ルフィをはじめとする麦わらの一味なのだ。
ただし、『ONE PIECE』全体ではルフィが主人公。そこは揺るがない。
だからこそ、物語の終盤では必ず主人公の交代現象が起こる。

エピソードの主人公(アラバスタ編においてはビビ)が
使命」のために奔走する過程で、助力者(ルフィ)と知り合う
  ↓
エピソードの主人公は敵対者に立ち向かうが、
敵わずに助力者ルフィに助けを乞う
  ↓
ルフィが主人公として「使命」を肩代わりし、敵対者をうちのめす

実は、『ONE PIECE』では多くのエピソードでこの展開が必ず発生する。
アーロンパーク編では、ナミがルフィに助けを乞い、アーロンを倒す。
エニエス・ロビー編では、ロビンがルフィに助けを乞い、CP9を倒す。
ドレスローザ編では、レベッカがルフィに(以下略)
ルフィは最初、エピソードの主人公が背負う「使命」には
まったくといっていいほど興味がなさそうなのが特徴だ。
それでいて、物語後半のふとした時にキレる。
能天気でどこか抜けてさえいるルフィが、格好良く見える瞬間だ。
それこそが、役割が交代する瞬間であり、
ルフィがそのエピソードでの「使命」を背負う瞬間でもあるのだ。

・贈与者(提供者)

→敵を倒すための能力やアイテム、あるいは情報を主人公に授ける存在だ。
先に述べたように、アラバスタ編では主人公がビビからルフィへと交代する。
そのため、贈与者も二人いると考えてよいだろう。

まず、ビビにとっての贈与者は、バロックワークスの情報をつかんできた
護衛隊長イガラムであると考えられる。
贈与者は主人公の旅には同行しないか、物語の途中で姿を消すものだ。
『桃太郎』におけるおじいさん・おばあさんや、
『スター・ウォーズ』におけるマスター・ヨーダのように。
中には、『指輪物語』におけるガンダルフや
『ダイの大冒険』におけるアバン先生のように、
物語後半で復活を遂げるタイプの贈与者もいる。
イガラムはウイスキーピークでミス・サンデーに爆破されて姿を消すが、
物語終盤には生きて戻ってくる。復活し再登場するタイプの贈与者といえる。

そして、ルフィにとっての贈与者は、
砂嵐によって枯れた町ユバで一人水を掘り続けるトトだ。
ルフィが堀った穴からコップ一杯ほどの水を蒸留し、ルフィに渡す。
トトは旅に同行しないタイプの贈与者といえる。
この一杯の水こそが、スナスナの実の能力者であるクロコダイルの
弱点を暴くキーアイテムとなるのだ。
それまでは能力者の弱点=海だったところへ、
能力に即した弱点があるという視点をはじめて持ち込み、 「能力バトル」としての厚みを持たせた点でも画期的だ。

・偽主人公

→アラバスタ国を七武海クロコダイルから救うのは海賊麦わらの一味だが、
その功績はスモーカー&たしぎの海軍に与えられる。
プロップのいう「偽主人公」は、最後には本物の主人公に嘘を暴かれ、
罰せられることになるという。そういうパターンの役割なのだ。
しかし、ルフィたちは功績や名誉を求めているわけではないので、
嘘を暴こうとはしない。
また、スモーカー&たしぎも嘘の功績を決して望んだわけではない。
主人公の手柄を横取りする「偽主人公」は、
ロシアの昔話(魔法民話)にはよくある役割らしいが、
そもそも日本の昔話などには当てはまりにくい。
主人公が海賊であり、功績や名誉に興味がないルフィである以上、
『ONE PIECE』では偽主人公の役割は機能しないと考えてよいかもしれない。

残る2つの行動領域(王女とその父親、派遣者(送り出す者))は、
アラバスタ編では当てはまるキャラクターがいないと考えられる。
「王女とその父親」は、一見するとビビとコブラ王のように思えるが、
プロップのいう王女とは探求される(=敵対者にさらわれる)存在。
ビビは主人公として国を救う使命のもと奔走するので、
これには当てはまらないだろう。
「派遣者(送り出す者)」は主人公に使命を与える存在だ。
ビビはイガラムが入手した情報を元にバロック・ワークスに潜入するが、
イガラムは王女自ら冒険に出ることには否定的だったことからも、
派遣者とはいえないだろう。

もっとも、7つの行動領域のいずれかが欠けていても物語は成立するものだ。
次に分析する31の機能分類についても、
すべてを網羅した完璧な(?)物語はないといっていいだろう。
物語を書こうとする人は、これらの構造を足し算したり引き算したり、
良いとこどりをしながらプロットを組み立てていくとよいのかもしれない。

次の記事では、31の機能分類に当てはめてアラバスタ編を考察していく。

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