サッカー漫画の変遷に見るサッカー王国静岡県の立ち位置

全盛期の強さが影を潜めて久しいとは言え、サッカー王国と言えば静岡県と出てくる方も多いかと思います。またそれはサッカー漫画の歴史のなかでもそれは例外ではなく、幾度となく静岡県のライバルチームや静岡県を舞台とした作品が出てきます。

1968(昭和43)年メキシコ五輪でサッカー日本代表が銅メダルを獲得し、1970年ごろにかけ第1次サッカーブームが到来しました。埼玉、静岡、広島が日本3大サッカーどころとか言われたりもしていましが、そのころの代表作といえば「赤き血のイレブン」があげられます。主人公玉井真吾は埼玉県新生高校のサッカー部のセンターフォワードですが、全国大会で立ちふさがるライバルとなったのが、静岡県代表藤江西高校のゴールキーパー上岡剛です。ボールの気配だけでキャッチングするというとんでもないゴールキーパーでした(笑)。
こんな全国大会での対戦などを見ても、当時のサッカーどころ同志がお互いをライバル視し、しのぎを削っていた時代背景などが伺えます。

その後オイルショックと共にメキシコ五輪の日本代表の活躍の記憶も過去のものとなり、「サッカー漫画はヒットしない」などと揶揄された時期もありましたが、1980年代に日本だけでなく世界にまで影響を与えた漫画が誕生します。「キャプテン翼」です。

舞台となったのは「静岡県南葛市」。当時言われていたのが「サッカー王国静岡」、あるいは高校サッカーでは「静岡を制する者は全国を制す」などと言った言葉でした。実際清水市や藤枝市といった地域は本当にサッカーが盛んで、学校によっては男子生徒の高校入学時にサッカースパイクを購入させるような学校もありました。
そんなサッカーどころで、主人公の大空翼は次々とライバル達と対戦し全国大会へと駒を進めるのですが、ここでも前述のサッカーどころ対決が見られます。埼玉県代表明和FCの日向小次郎の出現です。日向小次郎は中学進学で東京の東邦学園へ越境入学となりますが、小学生編のこのような対決を見ると、ひと昔まえの第1次サッカーブームや日本3大サッカーどころの影響というものがまだまだ残っていた時代だったことが伺えます。

もう一つ、静岡県が舞台となったサッカー漫画の「シュート!」。
こちらは第1部から第4部まで1990年から2003年という長期間にわたっての連載でした。
主人公田仲俊彦は掛川高校のサッカー部(2部は中学生編だったので掛川西中学)。出身の掛川市大池(実際に存在する地名)というのがリアルでした(笑)。この頃になると、サッカーもプロリーグ誕生の影響からか全国でサッカーをやる人口が増え、静岡県代表校=強豪校という図式も崩れ始めてきました。そのためか、作中のユース代表ドイツ遠征時には半分以上いた静岡県からの選出(19人中12人)も2010年W杯ナイジェリア日本代表では半数以下(23人中11人)となっていて、実際のサッカーと静岡県との立ち位置あるいは勢力図といったあたりの影響が伺えます。
※参考…A代表に占める静岡県出身者の人数(あくまでも出身地基準) 
1994年アメリカ大会最終予選…22人中9人
1998年フランス大会本選…22人中9人
2002年日韓大会本選…23人中4人
2006年ドイツ大会本選…23人中2人(本当は3人予定だったが本選直前に負傷のためこの人数に)
2010年南アフリカ大会本選…23人中4人

以降、サッカーという競技が全国的に浸透しテレビでも日本代表の試合が当たり前に放送されるようになると、サッカー漫画も次々と発表され、題材も学生のクラブのみならずプロチームにもその範囲が広がりました。ところが、それは同時に「サッカー王国=静岡」という図式が薄れゆく時代への突入となりました。
舞台も東京都(Days、ファンタジスタ)、愛媛県(アオアシ)、あるいは埼玉県への回帰(BE BLUE青になれ)など地域も多様になり、強豪校として静岡県の学校が登場することも少なくなりました。また、実際の学生のサッカーでも、静岡県代表校の優勝あるいはトーナメントを勝ち上がることが厳しくなったりしてきました。

また、プロチームを題材としたサッカー漫画も出てきましたが、連載開始時期(ジャイアントキリング:2007年~、フットボールネーション:2010年~)的に静岡県内にある2チーム(ジュビロ磐田、清水エスパルス)とも上位争いに中々絡めない時期だったためか、劇中の静岡県にあるチームも主役級あるいは準主役級といった扱いにはなれてないような印象をうけます。

漫画という架空の世界であっても、現実の流れをちゃんと踏まえて書かれているサッカー漫画…普通の読者にとっては面白いあるいは引き込まれるものがある反面、「サッカー王国静岡」と言われた時代を知る人達にとっては少し寂しい部分を味わっているのかも知れません。

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