るろうに剣心は難しいテーマに挑戦 感想 レビュー

作品の舞台設定と登場人物

るろうに剣心は、従来の少年漫画、とくに少年ジャンプで多く見られる設定から外れる作品でした。まず、舞台設定です。多くの少年漫画が、架空の世界や現代、近未来を舞台としています。過去の時代であっても、比較的最近の時代であるか、戦国時代などが多く、明治時代という設定は珍しいと思いました。また、主人公や登場人物のキャラクター設定も、従来の少年漫画の多くは、10代の少年少女を主人公とすることが多いのに対し、20代後半の主人公という珍しい設定です。他の登場人物においても、年齢層が高く、人生経験も豊富である点が特徴です。従来の少年漫画では、人生経験が浅く未熟な主人公が、経験を積んで成長するというストーリーが多いのに対し、かなり珍しい設定だと思いました。

贖罪という重いテーマ

この作品の大きなテーマに、過去の贖罪というテーマがあります。幕末から明治維新にかけて、登場人物がそれぞれ自分の信念に従って行動したことに対し、明治時代になってもその責任を負うという重いテーマです。これも少年漫画では珍しいテーマで、週刊少年漫画のエンターテインメント性と両立するのは難しいことに挑戦した作品だと思います。人生経験を積むと、自分の人生において、各場面で後悔のないように最善の選択をしたつもりでも、後になると、色々と問題に直面し、その責任を取らなければならないこともあります。かといって、現実問題、完璧で最良の行動をとることは不可能です。なぜなら、人間社会そのものが歪んでいるからです。人生経験の浅い読者にも、その歪んだ社会を生きる辛さを提示した作品かもしれません。

絶対的な正義と相対的な正義

少年漫画では、「正義」のために戦うという作品が多くあります。多くは、主人公の側が絶対的な正義であり、敵が絶対的な悪であるという、単純な図式です。しかし、この作品では、主人公の剣心は、明治政府を作った維新志士という設定です。歴史上は「正義」といえるかもしれませんが、絶対的な正義ではありません。明治維新の過程で、赤報隊のように切り捨てられた人々も多くいることを作品の中で描いています。そして脇役に、その赤報隊や新撰組の生き残りを登場させることで、維新志士でさえ絶対的な正義でないことと示しています。歴史において、正義とは常に相対的であり、それはすべての人の人生にもつながることです。自分が良かれと思って行動したことでも、立場や考えの異なる人にとっては、そうではないのです。

ストーリー展開について

この作品は、作者によると、最初は女性読者の反響が多かったそうです。歴史を舞台にしていることから、いわゆる歴史好きの歴女の興味をひいたこと、絵柄がきれい(かわいい)ことが影響しているかもしれません。また、贖罪などの人間関係を中心としたストーリーであることも関係しているように思います。しかし連載が続くにつれて、少年漫画にありがちな修行やレベルアップ、バトルのシーンが増え、男性読者が増えたそうです。しかし、他の作品のように、戦う理由が単に「強くなりたい」という理由ではなく、自分の信念であるとか、過去の行動の贖罪のためであるという点が、やはり異色です。そして、重いテーマにもかかわらず、なるべく多くの登場人物を救い、前向きに生きるラストにつなげたのは、偉大な作品だと思います。

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