新海作品の魅力 ~「ほしのこえ」から変わらず伝えたいもの~

ここまで「君の名は。」を中心に、作品の魅力や考察に迫りました。今回はそれら「新海作品」の根底にある、普遍的なテーマを探っていきます。全ての作品に共通するテーマは何か。

【風景のこだわり】

他のアニメ映画との比較でよく挙げられるのは、映像の美しさです。「君の名は。」や「秒速5センチメートル」では、そこに聖地巡礼として訪れるファンが多く、そのことからも映像が持つパワーを感じます。

加えて、特定の場所以外にも、時間や季節から切り取った風景も作品を彩っています。例えば「空」です。

「雲のむこう、約束の場所」では青空を割くように飛ぶ白い飛行機という構図。「言の葉の庭」では変化の激しい梅雨空。「君の名は。」ではカタワレ時がそうです。

こうした「空」への思いは「ほしのこえ」にてすでに表現されています。美加子と昇の2人で自転車に乗りながら夕焼け空を見上げるシーンがあります。ここはカタワレ時の原点かもしれませんね。

さらに言うなら、昇が「思いが、距離や時間を越えることだって、あるかもしれない」というセリフがあります。このセリフが実現したのが「君の名は。」です。新海監督が、初心を大事にしていることが伝わってきます。

【日常を愛おしむ】

空の他にも、新海作品では日常あるものが美しく見せています。

「ほしのこえ」では、美加子が「昇くんとまた二人で、コンビニでアイス食べたい」と願いました。宇宙船に乗って、色々見たり感じたりした美加子が願うのは、昇との日常でした。

「雲のむこう、約束の場所」では、佐由理と交わした遠い約束を叶えるべく、物語が動き始めました。浩紀と拓也は3人で過ごした日々、日常が離れずに心に留まっていたからです。

「秒速5センチメートル」ほど、日常のを綺麗に綴った作品はありません。この作品に特別な要素はなく、大なり小なり視聴者にも通ずる体験があることを題材にしています。

「星を追うこども」は、非日常な舞台や出来事が多い作品です。しかし、だからこそ田舎町の日常や風景、人物の心理描写がリアルです。

「言の葉の庭」は、「雨の日だけの特別な逢瀬」というのは特別感がありますが、雨降りの新宿御苑というのは別段特殊な状況ではありません。それでも雨が嵐が、雨上がりの空が、作品に表情をつけています。

「君の名は。」の見どころは、彗星落下直前かもしれません。しかし、瀧と三葉が互いを恋愛対象として意識し出したのは、入れ替わりの日々―。「前前前夜」が鳴り響くあのシーンです。

【まとめ】

「情感あふれる風景は、どのようにして作られるのですか」という質問に新海さんはこう答えています。

「何か特別な風景を探しているわけではない。秒速5センチメートルの舞台が参宮橋なのも、当時その近くに住んでいたというだけ」

いくらでも空想やファンタジーを描くことも出来るアニメ映画において、新海さんのこだわりを感じる発言でした。ぜひ新海作品を視聴する際は、日常は光で満ちていることを感じてほしいと思います。

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