【レビュー】 20世紀少年 作者:浦沢直樹

 それにしても浦沢直樹氏は、一体ポケットをいくつ持っているのだろうか。『YAWARA!』、『MASTERキートン』、『MONSTER』、『PULUTO』、そして本作『20世紀少年』と、全く毛色の違ったヒット作を、次々と書き続けている。天才というのか、感性豊富というベきか、あるいは努力家なのだろうか。
 ほぼ共通しているのは、登場人物が多く、謎を小出しにし、しつこくそれを追いかける、というパターンであろう。あとローマ字のタイトルが好きだということかな・・。それから長編物に限れば、話をどんどん広げてしまい、最終回になって急にボルテージが下ってしまう悪いクセもある。
 本作にもその傾向が現れていて、主人公と思れる人物が何人も登場する。最初はケンヂ、次がオッチョで、カンナへと繋いでゆく。そして時々「ともだち」が顔を出す。そんな具合で、最後は誰が主人公なのか判らなくなってしまうのだ。
 そしてストーリーは、少年時代と現在をいったり来たり・・。このような手法は、白土三平の『カムイ伝』そのものであり、浦沢氏も多分その影響を受けているのだろう。
 『鉄人28号』もどきのロボットが登場するところから、ここで描かれている少年時代は、昭和30年頃と推測される。浦沢直樹氏の生年からすると、まだ彼が生まれて間もない頃である。後に描かれる『PLUTO』も、『鉄腕アトム』のオマージュだから、同じく昭和30年頃のマンガの影響を受けているのだ。
 団塊の世代であれば分かるのだが、なぜもっと若い彼が、この時代に興味を持つのか聞いてみたいものだ。
 この時代の東京は、車も少なかったし、土地も安かった。それであちこちに空地が沢山あり、三角べースの野球をしたり、キャッチボール等をしたものである。
 このマンガの主人公達も、そんな原っぱの空地で、隠れ家ゴッコをしていた。そしてそこで生まれた荒唐無稽な空想が、大人になって次々と実現されてゆくという展開なのである。
 まず先に述べた『鉄人28号』もどきのロボット、細菌による世界壊滅、東京での万博開催などなどが、次々と現実のものとなるのだ。
 これらの事件の主犯と思われるのは、「ともだち」と呼ばれる新興宗教の教祖で、ケンジたちの少年時代の友人なのである。
 だから少年時代に謎を解く鍵があり、それを現在起こっている事件と結びつけてゆく。
 少年時代の描写は、まるで『スタンド・バイ・ミー』の世界であり、自分の少年時代とも重なって、懐かしさが竜巻のように蘇ってくる。ちょうどいま『三丁目のタ日』などのレトロブームであり、団塊の世代たちには嬉しいマンガであろう。
 このマンガは、全22巻で終了したばかりある。ところがその終わり方が、夜逃げをしたようで、すこぶる評判が悪いのだ。
 どうみても、無理やり店じまいをしたとしか思えない。新作『PLUTO』に早く乗り換えたくなったとも噂されている。これだけ引っ張ったのだから、ラストにはもっと感動的な「再会シーン」を用意して欲しかったね。
 殊にこのマンガの大きな謎である「ともだち」の正体が、不明のまゝ終了した事には、強い疑念と不快感を表明したい。売れっ子マンガ家の悲哀というのか、宿命というのか、浦沢氏に限らず、強引に引き伸ばしたと思ったら、急に打ち止めという長編マンガが多いよね。
 せっかく楽しく読ませてもらっても、これでは水の泡である。大体10巻位で終了するような構成が一番艮い。そういう意味では、岩明均の『寄生獣』を見習って欲しい。このマンガは引き延ばそうとすれば出来たものを、きちっと無理なく10巻で完結させている。
 出版社も営業第一だけではなく、もう少し読者と作品を大切にしてもらいたいものである。
  そういった不満が多かったせいか、最近別巻として上巻が発行された。これを読む限り、なるべく読者の不満を解消しようとする気配を感じる。
 ああ良かったと思ったが、その後発行された下巻を読んだところ、まだ奥歯にものの挟まった状態に逆戻り・・。どうして浦沢直樹という人は、もったいぶるのが好きなのだろうか。彼は何のための上下巻追加発行だったのかを、全く理解していないようだね。それともこれが彼の限界なのか。

この記事は蔵研人様の許可を頂いて転載しております。
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