DAYSは、生い立ちから生まれる特殊なサッカー選手 【レビュー】 DAYS 第44話

逆説的なスポーツ漫画

スポーツ漫画は山ほどあるしパターンも出尽くしているから普通じゃない発想でやらないと目新しさがなく、まったく面白くなくなってしまうというのが現代のスポーツ漫画の辛いところで、特に野球やサッカーを取り扱うと、本当に厳しいと思う。

『DAYS』はサッカー漫画だからもちろん今までのパターンは通用しない。
例えばドライブシュートとか幻の左とか絶妙なボールコントロールとか、もうそういったものはお腹いっぱいだ。

じゃあどうすんだ?
という中で一つの答えを出しているが少年サンデーのサッカー漫画『BE BLUES!』だ。
サッカーのメンタルの部分と人間のメンタルの部分を深く考察することにより少し違う次元のサッカー漫画を作った。
サッカーコラムのようなスタンスで選手を見るスタイルだ。

また、野球漫画の話なってしまうが『大きく振りかぶって』は、野球のテクニック的な部分よりも少年たちの友情と成長、それが野球の結果となって表れていくという新しい技法を作った。
これも相当に新しい。山田と岩鬼が仲良くなったら明訓が勝つという相関関係はなかったはずだ。

DAYSは、生い立ちから生まれる特殊なサッカー選手

今週号のDAYSはとても面白かった。いろいろな伏線が答えにたどり着いた回だった。

主人公は母子家庭で母親は体に障害があり車いすだ。
だからどこにいくにも主人公は人の目を気にしなければいけなかった。
それが周囲をよく見る習慣につながった。そして母親の面倒を見る事によって培われた優しさはチームメートにも向けられる。
それはサッカー選手としては致命的な勝負をしたくないという形で表れていたのだが、自分は勝たなくていいという気持ちと周りの人に注意を向けるという習慣が相まって、不思議なフォワードとしての能力に覚醒する。

自分がゴールを追わない事、チームメートを気遣う事により彼らのクセや思考を読み取る事で異常にコボレ球予測に優れるフォワードとなった。敵陣でこぼれ球を拾いまくるのだからこれは強い。
いうなれば「リバウンド王、桜木」みたいなものだ。

みなまで言うのが最近の漫画

昔の漫画はエンターテイメントだけでよかったと思う。面白い事が一番大事だった。
しかし最近の漫画は何かを読者の中に残さないといけないのかもしれない。
物語の中でさりげなく「より良く生きる姿勢」を提示するだけでなく自己啓発本顔負けの言葉を、登場人物に言わせる傾向が現代の漫画にはあるように思う。

”あの人はもしかしたらものすごく急いでたかもしれないよ”

主人公の母親が駅の階段で邪魔者扱いされた時に、納得いかない主人公に母親が言った台詞。
これは、そのまんま「七つの習慣 スティーブン・R・コビー著」の中に書かれている「パラダイムシフト」だ。

このように自己啓発的な内容を物語で見せるよりもはっきりと言葉にするという事が最近の漫画の傾向だ。
このあたりはやり過ぎれば説教臭くなる。しかし思春期前後の読者の勇気や生き方の指針になるかもしれない。
この傾向が進んでいくと漫画は子供の読み物という視点からだんだんと離れていくだろう。

長くなったが、今週のDAYSはいろいろ思うところの多い回だった。要するに大成功している回だった。

-週刊少年マガジン 2014年14号 DAYS-

””は、講談社「DAYS」 作者:安田剛士 から引用